imato

2021/06/30 23:04

奈良県下北山村のオウンドメディア「きなりと」を制作させていただきました。





Credit
編集長:上平俊(下北山村役場)
編集・執筆:赤司研介(合同会社imato)
Webデザイン・動画制作:鈴木人詩(ADRIATIC)
コーディング:吉永大(ADRIATIC)
ロゴ&イラスト:大原麗加
写真撮影:都甲ユウタ
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僕が下北山村を初めて訪ねたのは5年前。大台ヶ原・大峯山・大杉谷ユネスコエコパークのプロモーションのための『GREENPAPER』を制作した時でした。

毎年少しずつ、何かしらのご縁があり、春夏秋冬さまざまな季節を通して何人もの友人ができ、山を見せてもらい、川に入り、夜にはあふれんばかりの星空を見上げ、BBQコンロや鍋を囲んでお酒を飲んだり、子どもを連れて遊びに行ったり、歴史的な瞬間に立ち会ったり。訪ねるたびに、下北春まなや、鹿肉や、たまごや鮎など、お土産をいただいたり。本当にたくさんの思い出があります。

そうして数年をかけてゆるやかに関わりが続き、今回の仕事を通じて村のことを改めて考えさせてもらう中で、ある日の帰り道、運転中に「人の自然が回復する村」という言葉が頭をよぎりました。

人口800人という村民みんなに主体性が求められる規模。都市部からは容易に訪ねられない距離感。海まで車で30分の山村という、海山川里のつながりを物理的に感じやすい立地。修験霊場の奥座敷としての信仰とその歴史、都市育ちでは得難い生きる力を備えた村民たち。人間が都市生活とテクノロジーによってどんどん退化させている、理屈ではない“全体性”の感覚を取り戻すきっかけを得やすい環境・条件が、この村には特に揃っているような気がしています。

さらに、ここ数年で「BIYORI」や「むらんち」といった新たなコワーキングや交流の拠点ができたり、パーマカルチャーを体現する「山の家 晴々」や「マキビトCafe」ができたり、「ほったらかし家」「湖畔の宿なないろ」といった地元の方の温かさを感じられる宿ができたりと、訪問者が過ごしやすい環境も整い、大変訪ねやすくなりました。

「きなり」には「ありのまま」とか「素朴」という意味があります。これは20年ほど前から村で使われている、村民みなさんに馴染みのある言葉です。「と」には「戸(入り口)」「徒(仲間たち)」「杜(森)」「所(場所)」「途(旅の道筋)」という意味を込め「きなりと」という名前をご提案しました。自然への入り口、自然を想う仲間たち、自然な森づくり、自然な場所、自然回帰への道筋。それらの表現や実現へ、このサイトがきっかけのひとつになるはずだと思ってます。

また、サイトにはメディア機能を組み込みました。オープン時にまずはイラストレーターの上村恭子さん、下北山村役場の北直紀さん、「BIYORI」の仲奈央子さん、慶應義塾大学の学生で「むらんち」の言い出しっぺ・松村萌音さんに、記事を執筆していただきました。それぞれ、その人らしい個性が表れた記事になっています。読んでいただけたらうれしいです。

これは村が編集権限を持った、村民や関わりを持った人々が、自分たちの言葉で村の魅力や自らの暮らし・関わりを発信できるメディアです。商業ベースでないが故に、キラキラしていなくても、イノベーティブでなくても、ソーシャルでなくても、記事にして発信することができ、多様な住民関係者がこのサイトに寄稿することを通じて、記事を書く訓練にもなりながら、自らも村の魅力や自分の考えに気がつき、そして執筆者の数と同じだけの下北山村の多面性がここに記録・発信されていくはずだと思っています。

しかも、100枚以上使用した写真はその9割以上が都甲ユウタくんのもの。都甲くんは、村の人々に惹かれ、5年ものあいだことあるごとに村に通い、写真を撮り続けていました。個人的な喜びの話になりますが、彼が撮りためていた写真たちの活躍の場をつくれたというのは、編集者としてめちゃくちゃうれしいことでした。

村の内側から行われる地続きの発信により、狭くとも深く村の魅力が人々のもとに届き、ひとつ、またひとつと、幸せな移住の実現につながるよう願っています。

制作に伴い、取材や撮影にご協力いただいた関係者のみなさま、役場関係者のみなさん、制作スタッフのみなさん、この場を借りて御礼申し上げます。誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。